通勤手当の決め方は?経路のルール・2km未満・非課税の上限と、通勤災害まで見据えた申請の受け方
通勤手当のルールを作る、または見直す労務の担当者に向けた記事です。経路のルールの決め方、入社前と変更のときの申請の受け方、2km未満と非課税の上限の確かめ方をまとめました。あわせて、通勤災害や社会保険の月額変更とのつながり、在宅勤務に切り替えるときの考え方も扱います。就業規則に書く例文と、先に用意しておくFAQの例も付けています。
この記事で分かること
- 経路のルール(最短・最安・幅を持たせる)を、会社のスタンスから決める方法
- 入社前と変更のときに、経路まで回収する申請の受け方
- 2km未満と非課税の上限を、機械的に確かめる方法(非課税の限度額の早見表)
- 届けた経路が、通勤災害のときに持つ意味
- 通勤手当が変わったときの月額変更と、在宅勤務に切り替えるときの考え方
経路のルールは、会社のスタンスを決めてから書く
労務の現場から
まず、経路を就業規則で必ず決めておきます。最短なのか、最安なのか、ある程度の幅を持たせて、この金額の範囲なら選んでよいとするのか。特急がある路線や、遠くに住んでいる人に、どこまで何を使ってよいとするのかも決めます。どの会社でも経験したのは、本人が使い慣れている、混んでいて遅れが多い、といった外からは見えにくい理由で、別の経路を選ぶケースです。最短の経路以外は認めない会社もあれば、多少の差ならよしとする会社もありました。
どちらが正しいということはありません。大事なのは、ルールを書く前に、社内の決める人にスタンスを確かめることです。厳しくいくなら、「こう書くので、こういう場合はすべて認めないことになりますが、よいですか」と確かめます。幅を持たせるなら、どのくらいのイメージかを聞けば、書き方が決まります。
通勤手当は、福利厚生にもなります。遠くに住む人の交通費を手厚くすれば、近くに住む人以外も採用しやすくなります。反対に、手当を絞る制限を加えるなら、その制限に合理的な理由があるかを確かめておきます。
| スタンス | 書き方の例 |
|---|---|
| 厳しくいく(最も安い経路に限る) | 通勤手当は、会社が認めた最も経済的かつ合理的な経路及び方法による1か月の定期代相当額とする。通勤は、会社が認めた経路及び方法で行う。 |
| 幅を持たせる | 最も経済的な経路の運賃に比べて月〇円以内の差であれば、本人が届け出た経路の定期代を支給する。 |
| 遠方からの通勤も受け入れる | 特急・新幹線の料金は、〇〇の場合に限り支給する。支給する額は、1か月〇円(非課税の上限)を上限とする。 |
| どのスタンスでも書いておくこと | 片道2km未満の人には支給しない(する場合はその額)。経路や住所が変わったときは〇日以内に届け出る。届け出た経路で通勤する。 |
割り切りが要るのは、「なぜこのルートはだめなのか」と食い下がられたときです。その場で考えて答えるのではなく、ルールを決めるときに、聞かれそうなことを予測してFAQを作っておくのが大切です。答えがルールに書いてあれば、担当者の判断ではなく会社の決まりとして説明できます。
| 聞かれること | 答えの例 |
|---|---|
| いつも使っている経路のほうが混まないのに、なぜだめなのか | 通勤は、規程で決めた経路でお願いしています。会社が認めた経路と実際に通う経路が違うと、通勤中に事故があったときに説明が難しくなるためです。 |
| 特急を使えば30分早いのに、特急料金は出ないのか | 特急料金は、規程で決めた場合に限っています。〇〇に当たらないため、出ません。 |
| 家から駅まで自転車なのに、その分は出ないのか | 片道2km未満は支給の対象外です。 |
| 引っ越したが、届け出が遅れた | 引っ越しの日にさかのぼって、手当を直します(多く払っていた分は返してもらいます)。 |
入社前に、経路まで回収する
労務の現場から
通勤手当は、入社までに確定させることが大切です。内定者への入社前の案内は、人事システムの中で行う会社も、独自に行う会社もありますが、どちらにしても、アンケートなどで経路まで回収できる流れにしておきます。今いる社員の変更は、人事システムか何かのフォームで申請の様式を用意して回収します。ポイントは、必ず経路まで確認することです。電車なら途中の乗り換え駅まで、車やバスなら使う道まで、Googleマップや乗り換え案内のサイトの結果で、食い違いがないようにしておきます。
人数が少ないうちは、フォームと乗り換え案内の画面で足ります。人数が多くなったら、人事システムの中の申請を使うメリットが大きくなります。乗る駅と降りる駅を指定すると本人が乗り換えを検索でき、出てきた経路の中から選ぶ形にできるので、確認の手間が大きく減ります。
| 項目 | 確かめること |
|---|---|
| 住所と、使い始める日 | 引っ越しなら引っ越しの日。手当を変える月が決まる |
| 手段(電車・バス・車・自転車・徒歩) | 組み合わせる場合は、区間ごとに |
| 電車・バスの経路 | 乗る駅・乗り換え駅・降りる駅と、乗り換え案内の結果の画面 |
| 車・自転車の経路と片道の距離 | 地図の経路の結果の画面。2km未満か、距離の区分はどこか |
| 駐車場 | 使うか、月の料金はいくらか |
2km未満と非課税の上限は、機械的に確かめる
確認で漏れやすいのは、2km未満です。本人の申請だけを見ていると、実は片道2km未満だった、ということが起きます。2km未満の人には支給しないと決めている会社が多いので、地図の結果で距離を確かめるのが大事です。税金の上でも、車や自転車で片道2km未満の人に払う通勤手当は、全額が課税になります。
非課税の上限は、そもそも会社の支給の上限にしておくのがおすすめです。どんなに手厚くしても上限を非課税の枠に合わせておけば、課税か非課税かを人ごとに判断する必要がなくなります。電車・バスの人は、最も経済的かつ合理的な経路の定期代などで、1か月15万円までが非課税です(国税庁 No.2582)。新幹線や特急の料金も、それが最も経済的かつ合理的な経路なら含みますが、グリーン料金は含みません。車・自転車の人は、片道の距離で上限が決まります。
| 片道の距離 | 限度額 |
|---|---|
| 2km未満 | 全額課税 |
| 2km以上10km未満 | 4,200円 |
| 10km以上15km未満 | 7,300円 |
| 15km以上25km未満 | 13,500円 |
| 25km以上35km未満 | 19,700円 |
| 35km以上45km未満 | 25,900円 |
| 45km以上55km未満 | 32,300円 |
| 55km以上65km未満 | 38,700円 |
| 65km以上75km未満 | 45,700円 |
| 75km以上85km未満 | 52,700円 |
| 85km以上95km未満 | 59,600円 |
| 95km以上 | 66,400円 |
勤務先や駅の近くの駐車場を使う人は、駐車場の料金を月5,000円まで足せます。電車と車を組み合わせる人は、2つを足した額が限度で、合計で1か月15万円までです(国税庁 No.2585)。限度額は改正で変わることがあるので、規程には金額を書かず「所得税法で非課税となる額を上限とする」と書いておくと、改正のたびに直さずに済みます。
通勤手当は、機械的に判断できるようにしておくのが大切です。経路のルール、2km未満、上限、FAQまでを先に決めておけば、申請が来たときに迷う場面がほとんどなくなります。事前の準備がものをいう業務です。
届けた経路は、通勤災害のときの「握った経路」になる
労務の現場から
通勤手当は、そのまま労災の申請につながります。通勤手当だけで考えず、通勤災害では、会社が認めた経路、本人と握っていた経路であることがまずポイントになります。そこまで波及することを自分でも分かったうえで、本人とも経路を握っておかないと、「申請したルートではないから」と揉める原因になります。通勤手当そのものの失敗というより、本人が通勤災害を請求したときに、意外とそれが理由で話がこじれる、ということが起きうるので注意が要ります。
通勤災害として認められるのは、合理的な経路と方法で通勤していたときのけがです。通勤のために普段使っている経路なら、複数あってもどれも合理的な経路になりますし、当日の交通事情で迂回した経路も含まれます。一方、特に理由がなく著しく遠回りする経路は外れます(岩手労働局 通勤災害について)。会社に届けた経路でなければ必ずだめ、というわけではありません。
それでも、届けた経路は、事故のときに「普段どう通っていたか」を示す一番の材料になります。手当の安い経路で届けて、実際は別の経路で通っていると、説明が難しくなります。実際に使う経路で届けてもらい、経路や手段が変わったら届け直してもらう、というルールにしておきます。請求の進め方は、労災の記事にまとめています。
詳しく読む労災が起きたら会社は何をする?第一報から受診・請求、休んだときの補償、認められなかったときの伝え方まで金額が変わったら、月額変更の確認を忘れない
通勤手当は、社会保険の報酬に入ります。引っ越しなどで通勤手当の額が変わるのは、昇給と同じ「固定的賃金の変動」です。変わった月から3か月の報酬の平均が、今の標準報酬月額と2等級以上違い、かつ3か月とも支払基礎日数が17日(特定適用事業所で働く短時間労働者は11日)以上あれば、月額変更届(随時改定)を出します(日本年金機構 随時改定)。
月額変更は3か月の実績で決まるので、通勤手当が変わってもすぐに保険料が変わるわけではありません。大事なのは、通勤手当が変わったかどうかを担当者が気づけるかに頼らないことです。毎月の給与計算のあとに、固定的賃金が変わった人と、変わった月から3か月の報酬の平均・支払基礎日数を一覧で出し、2等級以上の差があるかを機械的に判断する流れを組んでおきます。そうしておけば、通勤手当の変更も、昇給や手当の変更と同じように拾えます。日本年金機構の事例集では、車で通う人のガソリン単価を毎月見直して通勤手当を変える場合も、固定的賃金の変動として扱うとされています(標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集)。
月額変更の確かめ方と、保険料が決まるしくみは、社会保険の記事にまとめています。
詳しく読む社会保険は誰が入る?加入条件の判定から入退社の手続き、算定・月変まで担当者の実務の流れ在宅勤務に切り替えるときは、精算の仕組みから決める
在宅勤務に切り替えて、定期代の支給から出社した日の実費の精算に変えるときに大変かどうかは、交通費の精算のしかたによります。経費の申請で精算している会社なら、何も変わりません。人事の側で計算して給与で払っている会社は、給与の仕組みそのものを変える必要があります。
社会保険の扱いは、労働契約で働く場所をどこにしているかで変わります。働く場所が自宅で、業務で一時的に出社するなら、その交通費は実費の弁償で、報酬に入りません。働く場所が事業所のままなら、出社の交通費は通勤手当として報酬に入ります。また、通勤手当をやめる、月額から日額に変える、といった変更は固定的賃金の変動なので、月額変更の確認の対象になります(上の事例集の在宅勤務の問)。
- 経路のルール(最短・最安・幅)を、決める人のスタンスを確かめてから就業規則に書いたか
- 2km未満の扱いと、支給の上限(非課税の額)を決めたか
- 聞かれそうなことのFAQを、ルールと一緒に用意したか
- 入社前の案内で、乗り換え駅・使う道まで回収しているか
- 車・自転車の人の距離を、地図の結果で確かめたか
- 固定的賃金が変わった人を毎月拾い、3か月後に月額変更を機械的に判断する流れがあるか
この記事の内容は、国税庁の電車・バス通勤者の通勤手当(No.2582)とマイカー・自転車通勤者の通勤手当(No.2585)、岩手労働局の通勤災害について、日本年金機構の随時改定と事務取扱いに関する事例集で確かめられます。