労災が起きたら会社は何をする?第一報から受診・請求、休んだときの補償、認められなかったときの伝え方まで
社員から「仕事中にけがをした」「通勤中に転んで病院に行った」と連絡を受けた担当者に向けて、労災(労働者災害補償保険)の対応を、第一報から受診、給付の請求、休んだときの補償、結果を本人に伝えるところまで順にまとめた記事です。労災の連絡は、たいてい突然、事故の当日か翌日に来ます。最初にやることは手続きではなく、本人が落ち着いて受診できるようにすることです。そのうえで、書類は決まった形に沿って進めれば、初めてでも回せます。
この記事で分かること
- 第一報から結果が出るまでの流れ
- 緊急連絡先に連絡するかどうかの線引きと、第一報で聞くこと
- 受診した病院による請求書の違いと、健康保険で受診してしまったときの切り替え
- 休んだときの最初の3日間の補償と、4日目からの給付(業務災害・通勤災害・私傷病の違い)
- 労働者死傷病報告の出し方(2025年1月から電子申請)
- 労災かどうかを会社が決めない理由と、認められなかったときの伝え方
労災の対応の全体像
労災保険は、仕事が原因のけがや病気(業務災害)と、通勤中のけがなど(通勤災害)について、治療費や休業中の所得を補う国の保険です。労働者を1人でも雇っている会社は、原則として加入しています。仕事や通勤が原因のけがには、健康保険は使えません。健康保険は、仕事と関係のない病気やけがのための保険だからです。
給付を請求するのは、けがをした本人です。会社は、請求書の「事業主の証明」の欄を書き、本人の手続きを手伝う役目を担います。全体の流れは次のとおりです。
- 第一報を受ける事故の当日〜翌日本人か上司から、メールか電話で連絡が来ます。まず受診できているかを確かめます。
- 受診を促すすぐ手続きより受診を優先します。病院では、仕事中(通勤中)のけがだと伝えてもらいます。
- 請求書をそろえる受診した月のうちを目安に病院の種類と、業務災害か通勤災害かで請求書が変わります。会社の欄を書いて本人に渡すか、回収して出します。
- 休んだら補償と報告休業が続くとき最初の3日間の扱いを決め、4日目からの休業の給付を請求します。労働者死傷病報告を労働基準監督署に出します。
- 結果を本人に伝える労働基準監督署の決定の後労災と認められるかは、労働基準監督署が決めます。認められなかったときの伝え方を、申請の時点から考えておきます。
労務の現場から
労災の連絡は、事が起きた後に来るケースがほとんどです。「通勤中にけがをして病院に行きました。どうしたらいいですか」「仕事中にけがをして病院に行ったのですが」という形で、当日か翌日に、本人かその上司から、メールか電話で入ってきます。まれに「これから病院に行くのですが」「今、救急車を呼びました」という連絡が来ることもあります。
第一報を受けたら、まず受診
緊急度が高い連絡のときは、労災のことはいったん考えなくてかまいません。会社で起きたことなので本人や上司は「どうしたらいいですか」と聞いてきますが、やることは、そのまま病院に行くよう促し、必要なら救急車を呼ぶことです。ここは会社の手続きではなく、誰かがけがをしたときの一般的な対応で、担当者の役目は、適切な処置が受けられるよう落ち着いてサポートすることです。
労務の現場から
労災の手続きを担当していると、事故の第一報が入ってくる立場になりがちです。緊急時の連絡なので、受ける側もそわそわしたり、浮き足立ったりします。大きな事故につながる可能性もありますが、まずは自分が落ち着くことを意識します。冷静に受診を促し、緊急連絡先に連絡するときも慌てずに話す。手続きは、緊急の場面が過ぎてからで間に合います。
緊急連絡先に連絡するか
担当者が迫られる判断の1つが、入社のときに届け出てもらっている緊急連絡先(家族など)に会社から連絡するかどうかです。線を引くのは、本人の意思を確かめられるかどうかです。
| 本人の状態 | 会社から連絡 | 補足 |
|---|---|---|
| 救急車で運ばれるなど、本人の意思を確かめられない | する | 会社から連絡するのは、この場合くらいにとどめる |
| 転倒して腰を打ったなど、本人と話せる | しない | 家族に連絡するかは、本人に任せる |
病院選びより受診を優先する
「どこの病院にかかればいいですか」と聞かれることもあります。労災保険の指定を受けた病院(指定医療機関)なら手続きが楽ですが、指定のない病院にかかっても、請求書の種類が変わるだけで請求はできます。まずは受診できることが第一です。近くの病院を探す余裕があれば、厚生労働省の労災保険指定医療機関検索で調べられます。
第一報で聞くこと
緊急の場面が落ち着いたら、本人か上司に次のことを聞いて記録します。請求書の「災害の原因及び発生状況」の欄や、労働者死傷病報告にそのまま使います。
- いつ(日時)、どこで起きたか
- 何をしていて、どうなったか(けがの部位と状態)
- 見ていた人はいるか
- 通勤中なら、いつもの経路の途中だったか
- どの病院にかかったか(これからかかるか)
- 病院で健康保険の資格確認(保険証・マイナ保険証)をしたか
- 仕事を休む見込みがあるか
受診した後の手続き
受診した後の進み方は、大きく2つに分かれます。1つは、本人が病院で労災だと伝えていて、病院から指示をもらっているケースです。労災に慣れた病院なら「この用紙をいつまでに出してください」と本人に伝えてくれるので、会社はそれに沿って会社の欄を書いて本人に渡すか、回収して出します。もう1つは、「実は病院に行っていたのですが、これって労災にできますか」と、ゼロから相談されるケースです。この場合は、かかった病院が指定医療機関かどうかで、出す書類と出す先が変わります。
| かかった病院 | 業務災害 | 通勤災害 | 出す先・窓口の支払い |
|---|---|---|---|
| 指定医療機関 | 様式第5号 | 様式第16号の3 | 病院に出す。窓口での支払いはない |
| 指定のない病院 | 様式第7号 | 様式第16号の5 | いったん本人が全額を払い、労働基準監督署に出して払い戻しを受ける |
様式は、各都道府県の労働局のページ(例: 鹿児島労働局「労災保険の請求手続き」)からダウンロードできます。治療費や休業の給付を受ける権利は、2年で時効になります(厚生労働省「労災保険の各種給付の請求はいつまでできますか」)。
会社の欄は決まった形で書ける
請求書の会社の欄(事業主の証明)は、決まった形式なので、書くことにそれほど迷いはしません。被災した日時や状況、休業の期間と賃金の支払いの状況などを、第一報で聞いたことと勤怠・給与の記録から埋めます。大事なのは、ここで止めずに先へ進めることです。労災のけがは、そのまま休業の補償の請求につながるケースが多く、そこまでの書類を滞りなく回すことが担当者の仕事になります。
健康保険で受診してしまったら
本人が労災だと言わずに、健康保険で受診してしまうことはよくあります。厚生労働省の案内では、まず受診した病院に、健康保険から労災保険へ切り替えられるかを確かめます。
- 病院に切り替えられるか確かめる切り替えられる場合は、様式第5号(通勤災害は第16号の3)を病院に出します。窓口で払った自己負担分は返してもらえます。
- 切り替えられないときは、健康保険に返す加入している協会けんぽや健康保険組合に労災だったことを伝え、届いた納付書で、健康保険が負担した分を返します。
- 労働基準監督署に請求する様式第7号(通勤災害は第16号の5)に、返した分と窓口で払った分の領収書を付けて出します。返すのが難しいときは、返し終わる前でも請求できます。
労務の現場から
労災の手続きは、けがが起きた月のうちに処理するつもりで動きます。月の後半に起きたけがは時間がかなりタイトになりますが、月内を意識しておけば、たいていは間に合います。
切り替えの確かめ方は厚生労働省のリーフレット「労働災害の場合は、必ず労災保険を請求しましょう」に、切り替えられないときの手順は「健康保険証を使って受診してしまいました。どうしたらよいでしょうか」にあります。
休んだときの補償と報告
けがで仕事を休むと、休業の補償の請求と、労働基準監督署への報告が加わります。労災保険の休業の給付は、休業の4日目から出ます。最初の3日間(待期期間)は給付がなく、業務災害なら、その3日間は会社が労働基準法にもとづいて補償します(労働基準法76条。平均賃金の60%)。
| 原因 | 最初の3日間 | 4日目から | 請求 |
|---|---|---|---|
| 業務災害 | 会社が平均賃金の60%を補償する義務がある(上乗せは会社の判断) | 休業補償給付(給付基礎日額の60%)と休業特別支給金(20%) | 様式第8号を労働基準監督署へ |
| 通勤災害 | 会社に補償の義務はない | 休業給付(60%)と休業特別支給金(20%) | 様式第16号の6を労働基準監督署へ |
| 私傷病 | 連続した3日間の待期期間(給付なし) | 傷病手当金(標準報酬月額をもとにした日額の3分の2) | 協会けんぽ・健康保険組合へ |
給付基礎日額は、原則として労働基準法の平均賃金にあたる額です(徳島労働局「休業(補償)給付」)。休業中も、社会保険の資格は続き、保険料の免除はありません。私傷病での休み方と傷病手当金の申請は、休職・復職の記事で説明しています。
労務の現場から
会社が原因のけがなら、最初の3日間に払う最低限の額は決まっています。そのうえで、特別な休暇として扱い、満額を払うのも1つの手です。一方、私傷病の場合は、最初の3日間は給付のない待期期間で、4日目からも給与の全額は出ないので、有給休暇を使うかどうかを本人に聞きます。
注意業務災害で療養のために休んでいる期間と、その後30日間は、原則としてその社員を解雇できません(労働基準法19条)。例外は、療養を始めて3年たっても治らず、会社が打切補償を払った場合(同法81条)や、天災事変などで事業を続けられなくなった場合などに限られます。休業が長引くときの扱いは、専門家に相談してから決めます。
労働者死傷病報告を出す
仕事中のけがなどで社員が休業したり亡くなったりしたときは、会社が労働基準監督署に労働者死傷病報告を出します。通勤災害は対象外です。2025年1月1日から報告の項目が改正され、電子申請が義務になりました(厚生労働省「帳票入力支援サービス」からe-Govを通じて申請できます)。
| 休業の日数 | 様式 | 期限 |
|---|---|---|
| 4日以上(死亡を含む) | 様式第23号 | 遅滞なく |
| 1〜3日 | 様式第24号 | 1〜3月分は4月末、4〜6月分は7月末、7〜9月分は10月末、10〜12月分は1月末まで |
報告を出さなかったり、うその内容で出したりすることは「労災かくし」とされ、罰則の対象です(福岡労働局「労働者死傷病報告の提出について」)。休業の給付の請求とは別の手続きなので、請求書をそろえるときに一緒に出すと漏れません。
労災かどうかは会社が決めない
「これは労災になるのだろうか」と迷う場面はあります。ただ、どんなケースが当てはまるかは、厚生労働省や労働局の資料に例が多く示されていて、以前より判断の材料はそろっています。たとえば通勤災害は、住まいと職場の間を合理的な経路と方法で移動している間が対象で、経路を外れたり移動を中断したりすると、その間とその後は通勤になりません(日用品の買い物など、やむを得ない最小限の用事は、経路に戻った後は通勤に戻ります。東京労働局「通勤災害について」)。
それでも、最後に労災と認めるかを決めるのは、労働基準監督署です。迷いやすい例が腰痛です。厚生労働省の腰痛の労災認定のリーフレットは、いわゆる「ぎっくり腰」は日常の動作の中で起きるため、仕事中に起きてもすぐに労災の対象にはならないとしています。重い物を持ったときに転ぶなど、仕事中の突発的な出来事で腰に強い力がかかった場合や、腰に負担の大きい仕事を長く続けた場合に、認定の対象になります。
労務の現場から
労災のつもりで進めて、最終的に認定されなかったケースもあります。よくあるのが腰を痛めたケースで、仕事中に発症したとしても、それまでの積み重ねが原因だとして、業務が原因とは判断されないことがあります。
大切なのは、自分で判断しないことです。ネットで調べて「ここまでなら必ず大丈夫」と思っても認められないケースがあり、逆に、だめだと思っても認められるケースもあります。会社がやるべきことは、用紙を出すことです。
注意会社が「労災ではない」と思っても、本人が請求すること自体は止められません。会社の欄に書く事実が本人の申告と食い違うときは、確かめた事実を書いたうえで、判断は労働基準監督署に任せます。
認められなかったときの伝え方
労災の手続きでこじれやすいのは、書類よりも本人とのやり取りです。労災に当たらなかったとき、本人から「なぜ当たらないのか」と問い合わせが続き、やり取りが長引くことがあります。会社が決めたことではないので、会社では答えようがありません。
労務の現場から
やり取りを泥沼にしないために、申請の時点で「おそらく大丈夫だと思いますが、最終的に判断するのは国なので、認められないこともあります」「だめかもしれませんが、出してみます」と伝えておきます。結果が出たら、それを本人に伝えます。「会社としてやれることはやりましたが、国が認めませんでした」という形になれば、その理由について質問を受けても会社には分からないので、「気になる点は、労働基準監督署に直接問い合わせてください」と、問い合わせ先を本人に移します。そうすれば、会社がそれ以上の手間をかけずに済みます。
決定に納得できない本人は、決定を知った日の翌日から3か月以内に、労働局の労働者災害補償保険審査官に審査請求ができます(厚生労働省「労災保険審査請求制度」)。これは本人が行う手続きです。業務外の病気やけがとして扱われる場合は、条件を満たせば健康保険の傷病手当金を申請できるので、その案内までを会社の役目にします。
確認と、外に任せるときの線引き
労災は頻繁に起きるものではないので、手順を覚えておくのが難しい手続きです。会社にしかない一番のマニュアルは、過去に出した書類です。通ったもの、認められなかったもの、労働基準監督署から直しが入ったものを見比べると、自社でつまずきやすいところが分かります。出した請求書の控えと、やり取りの記録は、まとめて残しておきます。
- 業務災害か通勤災害か、指定医療機関かどうかで、請求書の様式が合っているか
- 会社の欄の日時・状況が、第一報の記録と食い違っていないか
- 休業の期間と賃金の支払いの状況が、勤怠と給与の記録と合っているか
- 業務災害の最初の3日間の補償を、給与で払ったか
- 休業4日以上なら、労働者死傷病報告を出したか(1〜3日なら四半期の分に入れたか)
- 結果を本人に伝え、その後の問い合わせ先を案内したか
割り切ってよいのは、認められなかった後です。書類の不備で戻ってきたものは会社が直しますが、本人が理由をそろえて出し直すかどうかには、会社は間に入りません。社会保険労務士に手続きを任せている会社は、労災の請求が委託の範囲に入っているかを確かめておきます。ただ、任せる場合でも、流れは一度自分で経験しておくことをおすすめします。
「できますよ」と言える状態に
労災は、仕事をしていれば起こりうることなので、労務の担当者としては避けて通れません。苦手意識から「それはできません」となってしまうと、担当者としての信頼にも関わります。完璧にこなす必要はありません。書類に不備があれば何度でもやり取りできますし、早め早めに進めれば長くはかかりません。「時間がかかったり、何度か往復したりするかもしれない」と頭の片隅に置きながら、「大丈夫です、できますよ」と言える状態になっておくのが一番です。外部に任せる場合でも、流れを把握しておくことは欠かせません。
制度の全体は、厚生労働省の労災補償のページにまとまっています。
更新履歴
- 2026年10月16日: 公開