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退職時の有給消化は拒否できる?人手不足の会社が取れる4つの手と逆算スケジュール

退職届と一緒に「残っている有給、20日全部使ってから辞めます」と言われた。引き継ぎはまだ終わっていないし、代わりの人もいない。少ない人数で回している会社では、珍しくない場面です。この記事では、会社にできることとできないことを整理したうえで、人手不足の現場が取れる対応と、最終出社日を逆算するスケジュールの組み方をまとめます。

結論

退職時の有給消化は、原則として拒否できません。会社にできるのは、残りの日数から最終出社日を逆算し、引き継ぎを前倒しで進めることと、本人の同意のうえで退職日の後ろ倒しや買取りを相談することです。

退職時の有給で、会社にできること・できないこと
会社の対応できるか補足
人手不足を理由に取得を断るできない会社にあるのは「ずらす」権利だけで、断る権利はない
時季変更権で、退職日より後にずらすできない退職日の後には、ずらす先の日がない
会社の都合で退職日を延ばすできない退職日を変えるのは、本人が納得した場合だけ
残りの日数から、最終出社日を一緒に決めるできる申し出を受けたその日に確かめる
引き継ぎへの協力を相談するできるあくまで「お願い」。強いるとトラブルになる
退職日を後ろにずらしてもらうできる本人の同意が前提
使いきれない分を買い取るできる本人との合意が前提。会社に買い取る義務はない

拒否できない理由

会社が持っているのは、有給を「断る権利」ではなく、「別の日にずらしてもらう権利(時季変更権)」だけです。労働基準法39条では、会社は本人が請求した時季に有給を与えなければならず、事業の正常な運営を妨げる場合に限って、ほかの時季に変更できるとされています。

在職中なら「今週は繁忙期なので来月にしてほしい」とずらす余地があります。しかし退職する人の場合、退職日より後には、ずらす先の日がありません。行政の通達(昭和49年1月11日 基収第5554号)でも、解雇予定日を超えての時季変更はできないという考え方が示されていて、退職の場合も同じように、退職日までの取得を時季変更権で止めることは、実質的にできないと考えられています。

注意「有給を使うなら退職日を延ばしてもらう」という交換条件も、会社から一方的には求められません。期間の定めのない雇用契約は、民法627条1項により、申し入れから2週間で終わらせることができます。退職日を変えるのは、本人が納得した場合に限られます。

最終出社日は退職日から逆算する

もめないための一番のコツは、退職の申し出を受けたその日に、残りの日数から逆算した最終出社日を本人と一緒に確かめることです。有給を退職日の直前にまとめて取る場合、最終出社日は思っているよりかなり早くなります。

計算例: 週5日勤務(土日休み)で、有給が20日残っている人

有給の残日数 20日 ÷ 週の所定労働日数 5日 = 4週間

有給を使いきるだけで約4週間かかるので、最終出社日は退職日のおよそ4週間前です。期間中に祝日や会社の休日が入ると、その分だけ最終出社日はさらに前になります。

この例で、退職日の6週間前に申し出があった場合の流れは次のとおりです。引き継ぎに使える期間は、実質2週間しかありません。

  1. 退職の申し出退職日の約6週間前その場で有給の残日数を確かめます。
  2. 最終出社日を決める残り20日 ÷ 週5日 = 約4週間を逆算して、本人と合意します。
  3. 引き継ぎ約2週間口頭の説明より、引き継ぎ書・手順書の作成を先にしてもらいます。
  4. 有給の消化約4週間在籍したまま休みます。
  5. 退職日社会保険の資格は、退職日の翌日に失います。

「引き継ぎに使える日数」を早めに数字にして共有するだけで、「思っていたより時間がない」という双方の焦りを防げます。なお、有給の消化中も退職日までは在籍しているので、社会保険の資格を失うのは退職日の翌日です。月末に退職すると資格を失う日は翌月1日になり、退職した月の分まで社会保険料がかかります。本人から「退職日を1日ずらしたい」と相談されることもあるので、給与計算の担当者はこのしくみを押さえておくと説明がスムーズです。

退職日と使う有給の日数を入れると、土日・祝日を除いて最終出社日を逆算できます。今日から最終出社日までの出勤日の数も出るので、引き継ぎの計画にそのまま使えます。

退職前の有給消化と最終出社日を計算

入力した内容は送信されません(このページの中だけで計算します)

退職日の直前にまとめて使う日数(1日単位)。

休みの日(有給を使わない日)

人手不足の会社が取れる4つの手

取得そのものは止められなくても、引き継ぎの時間をどう確保するかについては、会社から提案できる手があります。いずれも本人の同意が前提で、強いればトラブルになる点は共通です。

引き継ぎの時間を確保する4つの手
手段向いている場面気をつけること
引き継ぎの前倒し・資料化最終出社日までが短いとき口頭の説明より、引き継ぎ書・手順書を先に。後任が決まっていなくても進められる
退職日の後ろ倒しを相談する転職先の入社日に余裕がある人あくまで「お願い」。断られたら元の退職日で進める
特定の日だけ出勤してもらう立ち会い・説明が必要な日があるとき取得済みの有給を会社が取り消すことはできない。本人が自分で申請を取り下げた日だけが対象
使いきれない分を買い取るほかの手が難しく、本人も精算を望むとき会社に買い取る義務はない。金額と支払日を書面で合意しておく

労務の現場から

退職時の有給について、会社が実際に打てる手はそれほど多くありません。取得についての本人の希望は、基本的に受け入れるものと考えておくのが現実的です。ここで食い下がったり焦ったりしても状況は変わらず、関係がこじれるだけです。

そもそも日ごろから信頼関係ができていれば、引き継ぎを放り出すような辞め方をされることは少なくなります。もし不義理な辞め方をされたとしても、それは日々の積み重ねの結果だと割り切ります。辞める人の説得に力を使うより、残る社員とこれからの体制づくりに時間を使うほうが建設的です。

一方で、買取りには応じる義務がありません。「使いきれない分を買い取ってほしい」と求められても、無理に応じる必要はないと割り切ってよい部分です。

買取りのルールと、金額の決め方

有給の買取りは原則として認められませんが、退職で使いきれずに消える分を精算することは、例外的に許されると考えられています。買取りを前提に有給の日数を減らしたり、取得を認めなかったりするのは、休暇を与える義務に反するので許されません。次のような「本来ならそのまま消える分」を金銭で精算するのは、問題ないとされています。

  • 退職で使いきれずに残る分
  • 時効(2年)で消える分
  • 法律の日数を上回って、会社が独自に付与している分

1日あたりの金額に、法律の決まりはありません。実務では、有給を取った日の賃金と同じ計算方法(通常の賃金など)を使うのが一般的です。

計算例: 有給の賃金を「通常の賃金」で払っている会社で、日額12,000円の人が8日分を買い取る場合

12,000円 × 8日 = 96,000円

対象の日数・単価・支払日は、書面で合意しておきます。

注意買取りのお金を給与として払うか、退職金に含めて払うかで、所得税や社会保険料の扱いが変わることがあります。払う前に、顧問の税理士・社会保険労務士に確かめておくと安心です。

有給を取った日の賃金の計算方法は、次の記事で説明しています。

詳しく読む有給休暇は何日付与する?パートの比例付与から、付与・取得の管理を仕組みにする方法まで

よくある場面別の対応

退職時の有給をめぐる相談は、たいてい次のどれかにあてはまります。

場面ごとの会社の対応
場面会社の対応
引き継ぎの途中で「明日から残り全部休みます」と言われた取得は断れない。引き継ぎ書の作成や、後任への説明の日程を「お願い」として相談する。応じてもらえなくても、不利益な扱いはしない
「有給を買い取ってほしい」と言われた応じる義務はない。応じる場合は、日数・単価・支払日を書面で合意する
有給の消化中に、転職先で働き始めたいと言われた退職日までは在籍中なので、就業規則の副業・兼業の定めに従う。社会保険の加入が重なる場合は手続きが要ることもあるので、日程を先に確かめる
パート・アルバイトが契約満了で辞める考え方は正社員と同じ。週30時間未満で週4日以下の契約なら、付与日数は比例付与になるので、それをもとに残日数を確かめる
引き止めたいので、有給を認めずに様子を見たい避けるべき対応。有給と退職の話を絡めると、退職の自由を妨げていると受け取られ、労働基準監督署への相談など大きなトラブルになりやすい

次の退職者で慌てないために

退職時の有給のトラブルは、申し出があってからでは打てる手が限られるので、ふだんの準備で大半を防げます。

  • 就業規則に、退職の申し出の時期(たとえば1か月前まで)と、引き継ぎへの協力を定めているか(民法の2週間より長い期間を強いることはできない点も理解しておく)
  • 社員ごとの有給の残日数を、勤怠管理システムなどですぐに見られるようにしているか
  • ふだんから有給を取る習慣ができているか(月1回くらいのペースで取れていれば、退職時に大量に残ることもない)
  • 手順書やマニュアルで、仕事の属人化を減らしているか(引き継ぎの期間が短くても回る)

有給以外の退職の手続き(最終出勤日までの段取りや、退職後に会社が出す書類)は、次の記事にまとめています。

詳しく読む退職・解雇の手続きは何をどの順で?最終出勤日までの段取りと書類、解雇予告手当の計算まで

有給のルールは、厚生労働省の確かめよう労働条件(年次有給休暇)でも確かめられます。個別の事情で判断に迷うときは、社会保険労務士などの専門家に相談してください。