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人事労務システム テーマ別ガイド

人事労務システムは何から入れる?勤怠・給与・電子契約の導入順と選び方、準備期間の見積もり

タイムカードやExcelで勤怠・給与を回していて、そろそろ人事労務システム(労務管理システム)に移したいけれど、何から手を付ければよいか分からない。そんな担当者や経営者に向けて、システム化をどんな順番で、どう進めるかをまとめた記事です。システムは一度に全部そろえる必要はありません。自社の実務を棚卸しし、やりたいことと準備の期間・担当を決めてから、データが流れる順に1つずつ入れていくのが、手戻りの少ない進め方です。

この記事で分かること

  • システム化の全体の流れと、最初にやる「実務の棚卸し」
  • 勤怠・給与・電子契約を入れる順番と、順番を入れ替えてよい3つのケース
  • シリーズでそろえるより、分野ごとに先に満たす条件
  • 準備にかかる期間の見込みと、任せる人・外注の決め方
  • 契約の前に、自社のデータで確かめる方法と、切り替えの時期

システム化の全体の流れ

人事労務のシステムは、大きく分けて勤怠管理・給与計算(年末調整を含む)・労務手続き(入退社や社会保険)・電子契約の4つです。給与計算と労務手続きは、1つの製品にまとまっていることが多いので、この記事では「給与計算ソフト」の中で一緒に扱います。人事評価や人材の配置を扱うタレントマネジメントシステムも「人事システム」と呼ばれますが、目的が違うので、この記事では労務の4つを扱います。どれから入れる場合も、進め方は同じです。

  1. 実務を棚卸しする今の作業を、誰が・いつ・どんな例外を含めてやっているかを書き出します。
  2. 今回やりたいことを決めるシステムで実現したいことを絞り、諦めることも決めます。
  3. 入れる順番を決める基本は勤怠 → 給与 → 電子契約の順です。会社の事情で入れ替えます。
  4. 期間と担当を見積もる初めてなら準備の期間は長めに見て、任せる人がいなければ外注も考えます。
  5. 候補を絞って、自社のデータで確かめる同じ質問で問い合わせ、過去の実績を新しいシステムで再現します。
  6. 繁忙期を避けて、1つずつ切り替える前のシステムが安定してから、次に進みます。

まず実務を棚卸しする

システムを入れるときに一番時間がかかるのは、製品選びより、導入した後の設定と、その設定が正しいかの検証です。説明を聞きながら「うちのこのケースはどう処理するのか」とその場で質問できるかどうかで、かかる時間が大きく変わります。そのための準備が、契約の前に済ませておく実務の棚卸しです。

棚卸しでは、普段の作業だけでなく、例外の処理を書き出すことが大切です。システムの標準の動きで回るのは普段の作業で、設定や運用の工夫が要るのは例外のほうだからです。

棚卸しで書き出すことの例
業務書き出すこと例外の例
勤怠勤務の形、締め日、承認の流れシフト制・変形労働時間制、複数の拠点
給与手当の種類と計算方法、支給日固定残業代、月の途中の入退社、臨時の手当
年末調整申告書の配り方と回収、確認の手順年の途中の入社、扶養の途中の変更
入退社集める書類、社会保険・雇用保険の手続き入社してすぐの退職、再雇用
契約書出す書類の種類と年間の枚数有期契約の更新、業務委託の契約

今回やりたいことを決める

棚卸しができたら、システムで何を実現したいかを決めます。製品の比較表を見る前にここを決めておかないと、機能の多さや料金の安さに目が行き、自社の困りごとが解決しない製品を選んでしまいます。

労務の現場から

システムを選ぶ軸は、「何をしたいか」です。担当者の手間を減らしたいのか、会社全体で情報をそろえたいのかなど、目線によって軸はさまざまですが、やりたいことを実現できるかを一番に置きます。

あれもこれもと欲張るより、「ここは諦めるが、今回の要望は必ず叶えられるシステムにする」と、自分の中ではっきり決めることが大切です。

やりたいことが決まれば、どのシステムのどこを重く見るかも決まります。

やりたいことと、重く見るところ
やりたいこと入れるもの重く見るところ
勤怠の締めを早くしたい勤怠管理システム従業員が迷わず打刻・申請できるか
集計の転記をなくしたい勤怠管理システム給与計算ソフトに渡せる項目と形式
年末調整の紙をなくしたい給与計算ソフト従業員が申告を入力でき、給与と同じシステムで完結するか
入退社の二重入力をなくしたい給与計算ソフト入社時の情報が給与と社会保険の手続きに使えるか
契約書の郵送・押印をなくしたい電子契約相手(従業員か社外か)と年間の枚数

入れる順番は勤怠から

入れる順番は、データが流れる順に合わせて、勤怠 → 給与 → 電子契約とするのが基本です。勤怠の集計結果が給与計算の材料になり、給与の情報が雇用契約書や給与改定の通知の中身になるからです。勤怠の集計が間違っていれば、どれだけよい給与計算ソフトを入れても、計算結果は正しくなりません。

電子契約は、勤怠や給与と違って、入れないと業務が回らないものではありません。給与計算ソフト(人事労務システム)を先に決めておけば、その製品に付いている電子契約の機能を候補にできるので、最後に回すのが合理的です。

順番を入れ替えてよい3つのケース

基本の順番は、会社の事情によって入れ替えたほうがうまくいくことがあります。

順番を入れ替えるケース
会社の状況先に入れるもの理由
給与計算を委託している給与計算ソフト(委託先と決める)委託先が対応できるソフトは限られることが多い。勤怠は、委託先が受け取れる形式に合わせて選ぶ
年末調整が近く、Excelでは限界給与計算ソフト従業員に申告を入力してもらうだけでも、紙の回収と確認の手間が大きく減る
社外との契約が多い電子契約(社外向け)社外向けの電子契約は勤怠・給与とデータがつながらないので、別に先に入れてよい

年末調整のために給与計算ソフトを先に入れる場合は、その年の1月からの給与のデータを新しいソフトに取り込む必要があります。取り込みと確かめに時間がかかるので、年末調整の準備が始まるより十分前に動き出します。

詳しく読む年末調整はいつから何をする?10月の事前確認から1月の提出まで、担当者の段取り

勤怠管理システム

勤怠管理システムは、打刻・申請・承認と、労働時間や残業時間、有給休暇の集計を受け持ちます。労働時間の状況を把握することは会社の義務で、2019年4月1日から、管理監督者を含むすべての労働者(高度プロフェッショナル制度の対象者を除く)について、タイムカードやパソコンの使用時間の記録などの客観的な方法で把握し、その記録を3年間保存することが求められています(把握は労働安全衛生法66条の8の3、記録の保存は労働安全衛生規則52条の7の3)。出勤簿などの労働時間の記録は、労働基準法でも5年間(当分の間は3年間)の保存が決まっています。

勤怠管理システムは、従業員が使いやすいものを選びます。打刻や申請を毎日するのは従業員で、打刻漏れや申請の遅れは、そのまま締めの遅れと担当者の修正作業になるからです。勤怠を早く正確に締められれば、給与計算の確かめに使える日数が増えます。比べるときは、従業員が触る画面(打刻・申請)と、担当者が触る画面(集計・締め)を分け、従業員側の画面は無料のお試しで実際に触って確かめます。

詳しく読む勤怠管理システムはどう選ぶ?成り立ちで分かれる強みと、主要製品の料金・向いている会社

給与計算ソフトと労務手続き

給与計算ソフトは、毎月の給与と賞与の計算、給与明細の配付、年末調整を受け持ちます。入退社の手続きや社会保険の届け出まで同じ製品で扱えるものも多くあります。

給与計算ソフトで一番譲れないのは、給与計算と年末調整が同じシステムの中で完結することです。年末調整には、その年の給与の結果と扶養などの最新の情報がすべて要り、システムが分かれていると、年末調整の途中で分かった変更のたびにデータが行き来するからです。あわせて、入社のときに集めた情報が、そのまま給与計算と社会保険・雇用保険の手続きに使われるかも確かめます。給与・年末調整・入退社の手続きの3つは、同じデータで動く1つのシステムにまとめておくと、二重入力と「どちらを直したか」の確認がなくなります。

給与計算ソフトには、随時改定(月変)の対象になりそうな人など、その時々に必要な対応を知らせてくれる仕組みを持つものが多くあります。算定基礎届・月額変更届・年度更新・賞与支払届といった定型の手続きは、ソフトに任せる前提で回します。製品を選ぶことと同じくらい、選んだツールを使いこなすことが大切です。

資本金が1億円を超える法人などは、算定基礎届・月額変更届・賞与支払届などを電子申請で出すことが義務になっています。対象の会社は、電子申請に対応しているかも確かめます。給与明細をWebで渡す場合は、あらかじめ従業員の承諾を得て、書面に出力(印刷)できる形で渡します(所得税法231条2項)。

詳しく読む給与計算ソフト・人事労務システムはどう選ぶ?年末調整と入退社の手続きまで1つで回るかで比べる主要製品と料金 詳しく読む給与計算は毎月どう回す?前月のロックから振込までの流れと、目視に頼らない確かめ方

電子契約

電子契約には、人事労務システムに付いている機能と、単独で使う電子契約サービスの2種類があります。前者は登録済みの従業員に雇用契約書や給与改定の通知を出すのに向き、後者はメールアドレスさえあれば誰にでも送れるので、業務委託や取引先との契約に向きます。どちらが優れているかではなく、送る相手で使い分けます。

労働条件通知書をメールなどの電子で渡せるのは、本人が希望した場合で、出力して書面にできる方法に限られます。紙を希望する従業員には紙で渡すと決めておきます。

詳しく読む電子契約サービスはどう選ぶ?雇用契約書は人事労務システム、社外との契約は専用サービスで使い分ける

シリーズでそろえるか

勤怠・給与・電子契約を同じメーカーのシリーズでそろえれば、データが自動でつながって楽になる。そう期待しがちですが、実際の選び方は少し違います。

労務の現場から

システムはどれも一長一短です。勤怠管理から始まってほかの機能を足していった製品は勤怠が強く、人事管理のシステムに勤怠の機能を付けた製品は勤怠の機能が薄めになる、というように、成り立ちによって特色が出やすくなります。会社の規模や運用によって合う製品は変わり、どの会社にも勧められる決め打ちの製品はありません。

また、システム同士をAPIでつないでも、必要な項目が100%そろうことはまずありません。結局、画面での手直しやCSVでの補いが出ます。そろえることを先に考えるより、分野ごとに譲れない条件を先に満たし、シリーズでそろうかどうかは最後の比べる材料にするのが現実的です。

分野ごとに先に満たす条件
分野先に満たす条件確かめ方
勤怠従業員が迷わず打刻・申請できるお試しで従業員側の画面を触る
給与年末調整まで1つで完結し、入退社の手続きと同じデータで動く年末調整の途中の変更がどう直るかを聞く
電子契約送る相手と年間の枚数に合っている書類を相手で分け、枚数を数える

例外は、入退社がとても多い会社や、急に人が増えている会社です。人の登録や削除を1か所で済ませられる利点が大きくなるので、シリーズでそろえる案を候補に入れて比べます。

期間と担当を見積もる

やりたいことと順番が決まったら、いつまでに切り替えるか、誰が進めるかを決めます。ここを甘く見ると、繁忙期にかかって切り替えを先送りすることになったり、担当者の普段の業務が回らなくなったりします。

労務の現場から

初めてシステムを入れるなら、準備の期間は想定より長く見積もります。慣れた担当者でも数か月はかかり、会社によっては年単位で見るケースもあります。時間がかかるのは設定と、その設定が正しいかの検証で、自社の実務を当てはめて「このケースはどうなるか」を質問・検証できる、一定の実務の理解が要るからです。

そのうえで、任せられる人材が社内にいるかを先に確かめます。いない場合は、外注も含めて検討します。

任せる人を決めるときは、次の点を確かめます。

  • 棚卸しした例外の処理を、自分で説明できる人か
  • 設定と検証の時間を、普段の業務とは別に数か月取れるか
  • 切り替えたい時期から逆算して、繁忙期を避けた日程を引いたか
  • 社内で足りない部分を、どこまで外に任せるかを決めたか

外に任せる先には、製品の導入支援(初期設定の代行や支援)、システムに詳しい社会保険労務士、給与計算などの代行の会社があります。最初の設定だけを外に頼み、運用は社内で回す分け方もできます。導入支援の範囲と費用は、問い合わせの段階で確かめておきます。

自社のデータで確かめる

候補を絞ったら、契約の前に、自社のケースで本当に回るかを確かめます。棚卸しで書き出した例外を、ここで当てはめます。

  1. 候補を3社ほどに絞る1社だけでは比べようがなく、多すぎると資料と説明に追われて判断が鈍ります。
  2. 同じ質問で問い合わせる総額(初期費用・最低料金・オプション・導入支援)、自社の例外の処理、ほかのシステムとの受け渡しを、各社に同じ言葉で聞きます。
  3. 過去の実績を再現する無料のお試しで、締めの済んだ過去のデータを入れ、実績と同じ結果が出るかを確かめます。
  4. 合わないところを問い合わせる設定で直るのか、製品として対応できないのかを確かめます。「運用でカバーしてください」が多い製品は、導入後に手作業が残ります。
お試しで再現すること
システム再現すること合っているか見るところ
勤怠締めの済んだ月の打刻と申請労働時間・残業・深夜・休日の時間、有給の日数
給与支給の済んだ過去3か月分の給与支給額・控除額・差引支給額
電子契約過去に出した雇用契約書や通知差し込まれる給与額・契約期間などの中身

お試しで現場の従業員に打刻してもらう方法もありますが、過去の実績を使うほうが早く確かめられます。正解が分かっているので、ずれたところがそのまま設定の足りないところや、その製品では対応しにくいルールだと分かるからです。使う月は、残業や休日出勤、入退社があった月など、自社で一番ややこしい月にします。その月が再現できれば、ほかの月で困ることはまずありません。給与計算ソフトは、過去3か月分の再計算に加えて、本番の1か月を今のやり方と並行して計算し、結果が一致してから切り替えるのが最低ラインです。

切り替えの時期と費用

切り替えは、労務の繁忙期を避け、1つずつ進めます。2つを同時に切り替えると、結果が合わないときに、どちらの設定に原因があるのかが分からなくなるからです。

切り替えの時期の目安
システム切り替えやすい時期避けたい時期
勤怠締め日の翌日から(月の途中で集計の方法が変わらないように)残業が多い繁忙期、入社が集中する時期
給与業務が落ち着いている月。年の途中なら1月からのデータを取り込む年末調整、算定基礎届、賞与の支給月
電子契約昇給や契約の更新がまとまる時期の少し前(ひな形を準備できるように)昇給・更新の書類を出す直前

費用は、月額の料金だけでなく、初期費用、最低料金、オプション、導入支援や外注の費用まで含めた総額で比べます。

中小企業がITツールを入れるときは、国の「デジタル化・AI導入補助金」(旧IT導入補助金)で、登録されたツールの費用の一部が補助されることがあります。申請は販売店(IT導入支援事業者)と一緒に行い、交付の決定を受けてから導入する流れなので、使うなら製品を決める段階で販売店に相談します。対象のツールや補助率、申請の時期は公式サイトで確かめてください。

結局、何から始めるか

最初の一歩は、製品の資料を集めることではなく、今の実務の棚卸しです。棚卸しをもとに今回やりたいことを決め、基本は勤怠から、データが流れる順に1つずつ入れていきます。初めてなら準備の期間は長めに見て、任せる人がいなければ外注も含めて決めておきます。候補は自社のデータで確かめてから選び、繁忙期を避けて切り替えます。この順番を守れば、導入した後に「この処理はどうするのか」で止まることが少なくなります。

制度の中身は、次の一次情報で確かめられます。労働時間の状況の把握は厚生労働省の労働安全衛生法の改正(労働時間の状況の把握)と労働時間の適正な把握のためのガイドライン、記録の保存期間は未払賃金が請求できる期間などの延長のリーフレット、電子申請の義務は日本年金機構の特定の法人の電子申請義務化、労働条件の電子での明示は厚生労働省のリーフレット、給与明細の電子交付は国税庁の電子交付に関するQ&A、補助金はデジタル化・AI導入補助金の公式サイトにあります。

更新履歴

  • 2026年10月7日: 公開